140SSお題(ジルオール|ナッジ,ヴァン)



「邪竜が復活したり、沢山の人達のソウルが奪われてさ……。
 なんだか、一気に事態が悪くなっていて……明日世界が壊れても不思議じゃないよね」
 四肢を投げ出して熟睡している親友を眺めながら呟く。
もし明日を迎えられないのなら、このまま指を絡めてみたい。
掌を溶け合わせたまま頬に口付けを落として、自らの内に忍ぶ愛情を移してみせたい。
──でも、やっぱり、最後の一瞬まで友達でいたい。
 伸ばした腕は、寝相の悪さに負けて親友の身体からずり落ちた外套を掴んだ。肩まで覆うように掛け直してから、目を閉じた。
 終末を側に感じても都合よく世界は変わらないのだと、今の自分は知っている。


『世界の終わりに』
ナッジ→ヴァン





「ようやくトールの雪が溶けたな。親父も巡礼客を連れて山案内をしとーるってな……ププ」
「トールとしとるをかけてるの? ふーん。
 ……この時期はヴァンのおじさんは大変だよね」
「何言ってんだ。俺たちにとってはチャンスだろ。
 ほら、支度終わったか? 行くぞ!」
「ちょっと! ……ふふ、もう。
 じっとしてられないんだから……待ってよ、ヴァン──」
 友人を追いかけて踏み出した足は、地面を捉えられなかった。支えの無い片足につられて傾いた身体はそのまま闇の中に落ちていく。

 身体がびくりと跳ねた。
 目覚めて、困惑のまま周囲を見渡す。夢の中で笑っていた親友は、当然ここにはいなかった。傍にいるのは、不安に顔を歪めて眠るコーンスの青年達だけだ。

(夢……。あの時は、冬が終わるのが待ち遠しかった。春になれば、君と沢山遊べるようになるから。
 今は……今は、春が怖い。雪が止んでしまったら……帝国軍がここに来る。
 ……ねぇ、ヴァン。君の怒る顔が目に浮かぶよ。でも、これが君を守る事にもなるって、思うから)
 吐いた溜め息は昨日よりも薄い白さを纏って景色に混ざって消えていく。密やかに終焉が近づくのを予感しながら、再び身体を横たえて背を丸めた。


『君のいない春に眠る』






 いけすかないあの少年の声が告げる。世界を守って欲しいという人々の願いが生み出した存在がジルなのだと。
 扉の先で漏れ聞こえたその言葉で、残っていた迷いが消えた。
(世界を守る? 笑えねえよ。ナッジを殺したお前が!)
 毎日親友を思い出す。気の抜けた笑顔。生意気な呆れ顔。わけもなくどきりとした、遠い視線。その全てが喪われた。
(例え俺以外の全員が望んでいても、俺だけは、認めない。望まない)
 拳に力を込めて歩みを速める。追いかけて、追いついて、その後は。
(あいつには守らせねえ。こんな世界、いらねえよ。
 ナッジを救わない世界なんて。……救われる必要なんか、ないだろ)
 やがて廊下の先に光が見えた。逆光が形作る人影に叫ぶ。その存在の全てを否定するように。世界の総意に自分の意志が飲み込まれないように。
「──待てよ、ジル!」


『お前ごときに、救えるものか』





 人間はコーンスを疎う。なまじ容姿は似ているのに、人間よりも背が高くて、人間よりも魔力があって、目立つ角を持っているから。似ているから、より差異に怯えるのだろう。
 幼い頃祖父からそう聞かされて、「そういうもの」なのだと理不尽な理屈を飲み込んだから、遠巻きにされるのも冷たい目で睨まれる事も仕方ないものだと思っていた。
 けれど例外がいた。僕の手を握って走り出す背中に当てはまる理屈が分からなくて、思わず問いかけた。
「どうして、コーンスを怖がらないの」
「俺に怖いものなんてねえ。それに」
「それに?」
「ダチってさ、そういうの、関係無いだろ」
「……そういうものじゃ、ないんだ」
「おう。ナッジはさ、俺のダチだかんな」
 振り返りもせずに呼吸のように返してきた言葉が、あの日からずっと僕の心に住み着いてしまって、そのうえ綺麗な宝物にならないうちに「ダチだから」の一言で毎日我儘が飛んでくるから、敵わないなあと君の手をほどかないまま今日まで来てしまったのだ。


『最大級の口説き文句』





「ねぇ、本当だと思う? この洞窟に、念じれば欲しいものが3つ手に入る像があるって噂」
「マジだとしたら、最初に見つけるのは当然俺達だな。
 3つか……カッコいい武器だろ。カッコいい必殺技だろ。後は、……更なる高みへ、ギャグセンスだ!」
「曖昧だなぁ。それじゃ見つけても具現化出来ないんじゃない?」
「何をおおお! お前はどうなんだよ」
「…………。現状、水と地図と薬かな……いたっ!」
「話にならねえ。全然ダメだ。つまらん」
「欲しいものに面白いもつまんないも無いでしょ」
「ごまかすのが面白くねえってんだよ! 俺の前で隠し事すんなっつの。
 分かんねえのは、……むかつくんだよ」
「ヴァン……。
 ……でもね、答えは変わらないよ。
 他の欲しいものは、ちゃんと、僕自身の力で手に入れるから」
「へっ、まあまあだな。ナッジにしては格好良いぜ」
「最近ヴァンが恥ずかしいことばっか言うから、影響されたかな……あたっ!」


『欲しいもの3つ』


2021.12

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